高度に発達した外食産業。

不動産にかかわる仕事をしているなら一度は聞いたことのあるであろう、「ロードサイドのハイエナ」こと、エムグラントの井戸実社長。その名の通り、ロードサイドのファミレス等が撤退した店舗をそのまま居抜きで借り受け、ステーキ「けん」を出店していくスタイルで、瞬く間に年商は200億を越えた。ブログやtwitterでの歯に衣着せぬ発言と炎上っぷりでネット上の話題にのぼることも多い。(彼の発言は多少の問題もあるのだろうが、周りから何を言われても発言を撤回することがない、という点においては、芯が通っていて立派だなぁと思う。脊椎反射的に発言していながらそれができるのは、経営者としてのリスクセンスの良さにつながるものがあると思う)

世界的にみても日本の外食産業は高度に発達している。味自体のレベルもさることながら、出店から店舗運営に至るオペレーションや、メニュー戦略、サービスレベルが安定して高い点は、それぞれが個々に他の産業に応用したり、世界に輸出できるノウハウだと思う(外食産業だけでなく、食材の輸送に際して高度な流通システムが整備されている点も特筆すべき)。外食産業を支えるシステムがこれだけ発達した理由は、業界内にほとんど規制らしい規制がなく、成功を夢見る起業家がどんどん新しいアイデアを試すべく参入してきたことが最大の要因だ。新規参入組を含めた自由競争、弱肉強食をベースとした世界でこそ、「けん」のようなモンスター級の企業が生まれたのだ。

しかしながら、高度に発達したシステムのなかで働く人自身は、極限まで効率的に、負荷の高い長時間労働を強いられがちになる(チャップリンの「モダン・タイムス」がなぜか思い起こされる)。ワタミの問題に象徴されるように、質量ともに誰もがこなすことのできる仕事ではない。外食産業における正社員の名ばかり管理職というポジションもまた、高度に発達したシステムのなかで、法律の抜け穴を利用して築かれた(人的)資源の有効活用法なのだろう。個人的にこれが問題だとか、法律を正すべきだとか言うつもりはないが、あまたある産業のなかで外食産業が、その革新性に比べてなかなか地位向上できない理由はここにあるのは間違いない。まぁ外食産業の経営者から言わせれば地位向上したところでそれがなんの意味もないと分かっているからこそのこの現状なのだろうが。