ポケットのような一日。

家を出るころには、雪が路面にシャーベットのように付いていた。雪が降っているのは首都圏だけ、という天気予報を決め打ちして、傘を持って出なかったので、道すがらでコートに湿った雪が吹き付けて、駅に付いてから仕方なく雪をティッシュで払い落とすと、たくさんの繊維がコートに残り、白い模様を作った。そんな風にケチがついて一日が始まった。東急線からはすっかり雪化粧した街が見える。強めに入れられた暖房が髪の毛とコートをどんどん乾かしてゆく。

東京駅もいささか混乱気味だが、東北新幹線はさすがにこれくらいの雪ではびくともしない。東京から仙台まで途切れることなく雪景色が続く。仙台にしても、半月前よりも道路わきに積み上げられた雪の量が多い。そして予想を裏切るかのように粉雪が待っている。あんた、仙台に来るたびに雪に降られているね、とお客さんにも言われる。

お昼を食べようとあおば通の商店街を歩いていると、ものすごい人だかりに出くわす。地デジカと草薙くんがイベントをやっているようだ。仙台では東京以上に芸能人を見かけることが多い。やじ馬が競うように携帯電話を掲げて写真を撮ろうとする。日々携帯電話を向けられるなんてどんな気分なんだろう。草薙くんが「世界にひとつだけの花」を歌いだす。黄色い歓声と、なぜか野太い叫び声も交じる。

20階の会議室から仙台の街を見下ろす。部屋はほどよく暖房がきいている。原発稼働率が限りなくゼロに近づいている。火力発電を増強するために、この1年間で3兆円以上の石油やLNGが余計に輸入されている。3兆円分の札束が燃やされてCO2になって日本の空を浮遊している。今日の仙台の空はどこまでも白い。個人的には脱原発に向かうべきだとは思うが、年間3兆円があればなにができるかな、とふと考える。

エルピーダという会社が、更生法を申請した。実は僕はエルピーダという会社のことについてはそれほどよく知らないのだが、「DRAM半導体)という日本の伝統芸能の灯を消すな」という言葉が耳に残った。いつからものづくりは伝統芸能になり、国策で保護しなければならない産業になったのだろう。補助金がどんどん打ち出されるようになった時点で、悲しいかな日本のものづくりは終わってしまったんだろうな、とぼんやり考える。

戻ってきた東京の空気のほうが、やっぱり冷たく感じる。四年前のきょうのことを思い出す。3月はライオンのようにやって来て、きっと子羊のように去っていく。