登山靴と僕。

東海道新幹線から見える山、と言えば富士山だけど、先日は丹沢山系の山々が真っ白に雪化粧していて綺麗だった。いつもならば丹沢山は真冬でもうっすら雪が積もるかどうか、の気候なので、日本海側の山のように真っ白に見えるのは珍しいと思う。関東平野に雪が積もった1月半ばの頃から丹沢の積雪はずっと50センチ前後を維持している。山に登りに行きたい。

4シーズン前の冬にふと山に登りたくなって、西神田の登山用品店でちょっと風変わりな登山靴を買った。革の色がそのままの、一昔まえのタイプの登山靴だ。手で持つとがっちりごつくて重いのだが、足を入れてみるとすっとなじんでごわごわすることもなく、寒さから足が守られている感覚になる。この登山靴を履いて、いろんな山に登ってきた。

初めて冬山の世界に入った雲取山では、マップに書かれたコースタイムよりもかなり時間がかかってしまい、日が暮れてもなかなか山小屋に着かない。暗くなり新雪がどんどん降り積もってくるなかで、やっとのことで山小屋の灯りが見えてきた時はどれだけほっとしたことか。

谷川岳では、日本三大急登のひとつである尾根を下山していく時に、50メートルくらい滑落してしまった。急な斜面を下りて行く時にはたいてい先人のつけた足あとに自分の靴を合わせていくのだが、残雪期で雪が溶けかけて足あとがぐちゃぐちゃになっており、踏ん張りがきかず滑ってしまった。ジェットコースターの下りのように足を下にして身体が斜面を滑り続け、いよいよ身体が宙に浮いたかと思ったら運良くくぼみがあり、そこに左足がスポッと埋まって九死に一生を得た。ただ右足は斜面にぶらんぶらんの状態だったし、太ももまでまるまる埋まった雪をかき出すのは骨が折れたが。

他にも、山中に湧きだしている温泉を求めてよく登った。雪の上に1メートル四方ほどの脱衣スペースと湯だけがぽつんとある温泉もあった。安達太良山くろがね小屋のおじさんは元気にしているだろうか。また雪遊びをしにいきたい。

去年もちょくちょく山に登ったが、冬山になかなか行けていない。真っ白に包まれた山にいると、自分の心の中のエゴやらなんやらどす黒いものが溶けていく感覚になる。自分の住む場所から遠く離れた心細さと、山に包まれて感じるえも言われぬ安心感が交錯する。

履き慣れた靴に足を通して、サクサクと音のする雪を踏みにいきたい。