「働きながら、社会を変える」

慎泰俊さんの著書「働きながら、社会を変える」を読んだ。慎さんのことを知ったきっかけはもう忘れてしまったのだけど、一年以上前からtwitterでフォローさせてもらっている。

慎さんの、つくば市児童養護施設での体験に関する記述から、この本ははじまる。文中に出てくる大学生のボランティア、というのは、おそらく僕の大学時代の友人が関わっていた活動なのではないかと思う。大学時代に、僕はつくば市で茨城YMCAという団体で子どもや知的障害を持った方と関わる活動をしていて、友人が関わっていた児童養護施設へのボランティア活動を、自分たちがやっていることと似たような活動なのかなと勝手に思っていたのだが、この本を読んでみて、奇しくも、友人たちが行っていた児童養護施設へのボランティア活動について、初めてほんの少しだけれども想像することができた。僕ならどう感じるだろうか、と想像してみた。

体験談を起点に、第二部以降はさまざまな角度からの現状分析と、その分析から得られた示唆をもとにした提案がつづられている。このあたりは慎さんの本業である金融や投資まわりのスキルが存分に生かされている。加えて、組織をマネジメントしていく慎さんの姿を、文章から読み取ることができる。その姿は、「働きながら、社会を変える」リーダーの誕生の過程そのものである。詳しくは書かないので、是非ともみんなに読んでほしいと思う。

慎さんは本著の活動の他にも、本業のPEのかたわら、趣味でバンドを組んでいたり、ウルトラマラソンに挑戦したり、僕からみれば超人的ともいえる日々を送っている。高校生までは囲碁をかなりのレベルまで極めていたようだ。本著は内容もさることながら、構成も素晴らしいと思う。将棋もそうなのだが、ハイレベルな囲碁の対局では、勝ち負けが見えてこない序盤から、最後の勝負どころを見据えて、その足がかりとなる手を打っておくことがしばしばある。本著のなかでも、施設の子どもたちが読んだらどう思うだろう、と考えながら、それでいて事実や真実を損なわないように、ひとつひとつの表現に至るまで、細やかに工夫がなされていることを感じ取ることができる。そのさまはまるで囲碁や将棋の名人が後世に残る様な素晴らしい一局の棋譜を残すことに並ぶような完成度で、なおかつそこには慎さんの愛情にも似た真摯さがあふれている。僕はたまたま将棋を趣味としていたからそういう見方をしたのだが、他にも僕の気付かないいろんなエッセンスが詰まっているのだろう。ジョブスとカリグラフィーのエピソード然り、すべての点は繋がりを持ち、すべては芸の肥やしとなるのだ、と思う。