浜通り、とある町の話。

投資をする、そしてそれを回収する(ことを通じて対象の個人や企業を再生させる)ことを仕事にしているので、仕事を進めて行く上での軸はシンプル(経済合理性)なのだが、今回の震災を通じて、被災地の企業との向き合い方が難しくなってきている。

福島県浜通りのとある町で複数のテナントが入る収益物件とアパート数棟を経営しているA社とは、震災前から折り合いが悪かった。保有している物件はこちらの担保に入っているので、テナントやアパートの入居者から入る家賃(といってもそれぞれの建物は築年数がかなり経過しており、その町自体がかなりさびれつつあることもあって入居率は半分を切っていた)は原則としてこちらへの返済に回してほしいというのがこちらの本音である。なおさらA社は収益物件の経営とは別に本業があるのである。ところが、A社の社長はいろいろと難癖をつけてきて、結局こちらへの返済にまわったのは、収益物件からあがってくる賃料のわずか2〜3割にとどまっていた。賃料を差し押さえるなどの法的措置も一部進めていたが、空振りに終わっていた。

そして大震災が起こり、さらに原発事故が起こり、その町は避難区域とはならなかったものの、メディアでも頻繁に取り上げられるようになり、ただならぬ状況であることが見て取れた。東北地方の太平洋沿岸部にある担当先の方々とは、現況の確認も兼ねて連絡を取り合っていたが、その会社とは折り合いが悪かったこともあり、僕はその会社をここ半年ほど放置していた(業界的にも、無理に連絡は取らなくてもよいとのお達しは出ていた)。付き合いのある現地の方々から伝え聞いたところによると、A社も含めて町内はほぼ通常通りの生活に戻っているとのことではあった。

先日、A社の物件でお店を借りて商売をしている人からいきなり連絡があった。聞くところによると、店舗部分もアパートについても震災以降ほぼ満室に近い状況だという。店舗部分については復興特需で飲食店を新たに始める人がでてきた。そしてアパートについては、正直震災前はぼろぼろでほとんど人が入っていなかったのだが、沿岸部で家を失った人たちが移り住んできたのだという。そしてこともあろうに店舗部分もアパートも震災後に賃料を上げているということを、その人は教えてくれた。なんらかの事情で家賃支払いが遅れていた人には、立ち退きもしているという。内部告発と言ってもいい。被災地、地元の人にもこんな小人がいるのか、とびっくりした。

おそらく僕は担当者としてこれからA社に向けてなんらかのアクションを重ねて行くと思う。実際のところどういう状況なのかまだわからないし、現地で確認しなければならないこともあると思う。ただ、法的措置を含めた強硬手段が、その物件を頼ってきた被災者をなんらかの形で巻き込む可能性があることも考えなければならない。どの手段を採ることが正解か、というのはサンデル教授の出す議題並みに難しく、正解のない道のりだと思う。僕は今でも経済合理性は善でありプリンシプルだと思っているが、今回はそうもいかないのかもしれない、と思う。