2人の求道者。

最後までハプニングありつつ、金沢での懸案の案件を片付けて、地元に帰って家業を継いだ元同僚と食事をして、大阪に向かう。敦賀から湖西線を通る。昔田舎への帰省に使ったり、琵琶湖バレイやマキノといったゲレンデにスキーに行ったり、小学校の頃の宿泊旅行(自然教室、という名称だったかな)に行ったりで、その頃を思い出したりする。琵琶湖と比良山系に包まれた穏やかなところで、食べ物もおいしい。一山越えれば趣のある農村(川床で有名な鞍馬や貴船のさらに奥に位置する)があり、いつかのんびりできるような身分になったら一度は住んでみたいと昔から思っている。

★★★

一昨日、将棋七大タイトルの1つである王座戦五番勝負の第三局が行われ、挑戦者の渡辺明竜王羽生善治三冠に勝ち、対戦成績3−0のストレートで王座の位を奪取した。羽生さんは王座戦のタイトルを19連覇していたが、ついにその座を下りることとなった。

日本時間のきょう、シアトル・マリナーズは今季最終戦に臨み、イチローは今季184安打でシーズンを終えた。シーズン200安打の記録は10年で途絶えることになった。

両者のコメントを読んだが、悔しがるというよりはさばさばした感じの言葉が並んでいた。もっと言えば、数字に追われることから解放された安堵感やすがすがしさを感じさせられた。記録の更新が止まることはファンの目から見ればショックなことではあるが、当の本人達にとっては、それぞれの「道」を究めるということに比べればそれほど対したことでもないのかもしれない。

そんなことを思わせる羽生さんのエピソードがあるので以下将棋世界2009年12月号、梅田望夫氏による観戦記より引用する。一昨年の王座戦第二局、山崎隆之七段との一局でのエピソードである。

『山崎の投了の意思表示に対して、羽生は身体をびくんと震わせ、
「おっ」と声を上げた。突然の投了に心から驚いている様子だ。そしてすぐ山崎に向かって、この将棋は難解なまままだまだ続くはずであったろう、そして自分の方の形勢が少し悪かったという意味のことを、かなり強い口調で指摘した。山崎もすぐさま言葉を返したが、羽生の口調と表情は厳しいままだった。

 数分後に関係者が大挙して入室してきたときには、穏やかないつもの羽生に戻っていたが、盤側で一部始終を観ていた私は、終局直後の羽生のあまりの険しさに圧倒される思いだった。羽生には勝負を喜ぶ、あるいは勝利に安堵するといった雰囲気は微塵もなく、がっかりしたように、いやもっと言えば、怒っているようにも見えたからだ。』

補足説明の必要もないと思う。勝ち負けを超えて、将棋という「道」を究めることに歓びを感じるのだろう。記録は途絶えても、羽生善治イチローも、これまでと変わることなく、むしろこれまでよりも純粋に、自分の「道」を突き詰めていくのだろう。