羽生新王位誕生〜数字と数字に隠れたものたち。〜
一昨日から昨日にかけて王位戦第7局が行われ、挑戦者である羽生善治二冠が広瀬章人王位を下し、5年ぶりに王位の座を奪取した。これで通算のタイトル獲得は80期となり、大山康晴十五世名人の持つ歴代最多記録と並んだ。80期・歴代最多タイ記録というのは大きな区切りであり、普段のタイトル戦と比べてもニュースでは大きく採り上げられたようだ。
その偉業もさることながら、記者会見で羽生さんが話した内容に感銘を得た。以下一部抜粋する。(http://t.co/CwYaRJC)
「若い20代の人たちが台頭していて、一局勝つというのが最近は大変だなとしみじみと実感することが多いです。もちろん記録が懸かっているというのはあるのですが、それ以上に私自身も新たにいろいろと研究・勉強しながらいまの将棋を理解して、それにプラスして自分の個性を出せたらいいなと思っています」
言葉にある通り、傍目にも今の羽生さんには以前のような圧倒的な強さはみられない。俗に羽生マジックと呼ばれる、誰もが思いつかなかったような切れ味の良い指し手をみることは少なくなっている。これは羽生さんだけに限らず、羽生さんと共に一時代を築いてきた、羽生世代と呼ばれる現在40歳前後の実力派の棋士達が、若手に一発食らわされることがとみに増えている。じっくりと世代交代が進んでいることを感じる。それは、単に若い世代が力をつけただけでなく、将棋というゲームの進化のスピードがどんどん速くなっていることも原因だと思う。羽生さんとて、その進化についていくのに精一杯ということだ。(その原因としては、ネットの普及により前例の棋譜の検索が非常に容易になったことや、昔よりも棋士同志で研究会が頻繁に開かれるようになったことにあるのではないかと思う)
今まで築いた名誉にけしておごることなく、真摯に将棋と向き合い続け、常に目の前の一局、次の一手に最善を追求する。その積み重ねによって結果として様々な記録がついてくる。力の衰えが隠せなくなったとしても、必死でそれに抗い続け、自己研鑽を続ける。記録をどこまで積み重ねるのか、ということよりも、これから数十年の羽生さんの戦いのさま、生きざまを見られることに至上の価値があると思う。
数字としてカウントされる偉業の価値よりも、そのなかの1局、1手に込められた羽生さんのメッセージに寄り添うことで、心が満たされる。今将棋が人気を取り戻しつつあるのは、そんな魅力を世間に伝えることが、上手くいきつつあることによるものかもしれない、と思っている。