ヒトのチカラ 無限大。

テグ世界陸上が早くも佳境に入っている。マラソンを含む長距離種目ではケニアエチオピア勢の身体能力の違いにただただ唖然とするばかり、男子100メートルは波乱の幕引きとなり、室伏が金メダルに向かってハンマーを投げた。日本人はそもそも身体能力だけで見れば完全に劣るので、能力に優れた他国の選手が突き詰めないようなところまで、身体の動きを合理化しなければまともに勝負ができない。ただ、その創意工夫こそが日本のアスリートが他国に長じているところなのだとも思う。能力で劣る日本人が他国の選手を土壇場でうっちゃることほど痛快なことはない。

世界陸上をテレビでみていて一番面白いのは、それぞれの選手が最高のパフォーマンスを出すべく集中力を高めていく様であると思う。ある者は身体を一定のリズムで揺らし、ある者は瞑想を行い、ある者は観客に手拍子を要求したりする。人間は普段本来持っている力の30%くらいしか出すことができないと言われているが、アスリート達はそれぞれに集中力を高めることで、そのパーセンテージを少しでも30%よりも高いところに持っていこうとしているのだと思う。各選手のピーキング(力を発揮するピークを決勝のスタートラインに持っていこうとすること)に対する取組を見るのも興味深い。凡人である僕自分の毎日の過ごし方にも取り入れられるものがあると思う。

加えて、少し残酷ではあるが人の心の動きをこれでもかと言うほどにストレートに感じられるところに、僕は楽しみというか感慨を抱く。ボルトがフライングで失格したときのやり場のない気持ちのこもったリアクションは忘れられないし、3年前の北京五輪為末大がインタビュー中に予選敗退を知らされたときの表情は今でも脳裏に焼きついている。あの表情の裏にどれだけの努力と感情の積み重ねがあるのか、ほんの一部ではあるけれど僕達は彼らの絶望と落胆に触れる。勝者よりも敗者や、棄権を余儀なくされた者に感情移入してしまう。

最後に蛇足だが、今回の織田さんは非常に落ち着いているし、選手に変なキャッチフレーズを付けたり、日本人選手だけに過剰にスポットをあてたりということも減ってきたように思う。テレビもなんだかんだ言いつついい方向に向かえているのかもしれない。