風が止まる場所。

出張で群馬県は太田に行く。

東武浅草駅は、浅草の町そのものの雰囲気と同じく、昭和な雰囲気が漂っている。駅構内は狭く、観光案内のお姉さんが古風ないでたちでカウンターに座っている。ホームはこれ以上ないくらいに大きく急カーブをとっており、場所によっては電車とホームの間が靴一足分以上あるかと思われるくらい空いている。線路に落ちないように補助板がホームと電車の間に渡されていたりもする。駅の放送も「先頭車両にお乗りの方もできる限り後の方からお乗りください」と告げている。なおかつ、ホームの長さは6両分しかないので、8両編成の電車などが到着すると、前の2両のドアは開かない。なにからなにまですごく不便なのだが、現在の浅草駅にはほとんど通勤通学の為の列車は入ってこない(半蔵門線日比谷線に直通運転で入っていく)ので、特に混乱も起きないようだ。平日の朝とは思えないのんびりした時間が流れている。ホームに止まっている快速電車の行き先は「東武日光・新藤原・会津田島」行きである。日光はともかく会津田島というのは福島県ではないか。浅草から快速に乗って福島県にまで行けるとは、なんてシュールなんだろう。

乗り込んだ特急りょうもう号は大きくカーブした浅草のホームから滑り出して、急カーブのままでゆっくりと隅田川を渡る。春はこの橋から見える両岸の桜が壮観である。花火大会の時など穴場かもしれない。隅田川を渡るとすぐに東京スカイツリーの脇を通る。上を向いてもなかなか先端までは見えない。

北千住までの区間は東京でも一番下町らしいエリアを走る。芸者の町向島や、『金八』のモデルになった堀切など、渋い町をくねくねと進んでいく。大阪で言うなれば南海電鉄汐見橋線(関西の人でも知っている人は少ないんではなかろうか?ディープスポットとして大阪に旅行で来る人にもお薦めしたい)のような場所である。東京という都会のなかのエアポケットのような世界。

北千住からは一転して住宅地になるが、ディープなスポットも思い出したようにやってくる。なかでも竹ノ塚はすごい。バンコクの歓楽街に通じる空気が流れている。治安はよくないのだと思うが、こういうところに足を踏み入れると生きてる実感がする。そのうちに人家がまばらになり、関東平野の北の端に到達する。